部活後の帰り道。校門をくぐってすぐの交差点でみんなと方向を違える私を、黄瀬くんが一人後から追いかけてきた。

 「あれ? 笠松先輩たちは?」

 「ん、今日は送ってくっス」

 「どうしたの、急に」

 「あー、その、春っスから。変質者とか! 増えるじゃないスか」

 私は少し首を傾げて笑った。何それ。見上げた黄瀬くんはどこかきまりが悪そうに目を泳がせて、先に歩き出した。私も体を反転させて、その後を追う。私たちの背中の向こうでは 信号が赤から青に変わり、停止線を踏み越えて車が滑らかに動き出す。
 今朝方降っていた雨は時計が正午を指すまでにはあがり、アスファルトにその名残はほとんど見当たらない。それでも空にはまだ幾分重みを含んだ灰色の雲がところどころに散らばり、 縁から斜陽に染められて、潤んだような色合いを湛えている。春めいた、少し霞んだ青から橙が頭上に広がる。四月に入り、肌に感じる風は着実に温んでいた。私も黄瀬くんも、ボタン 一つ、二つ分緩めた襟元にマフラーはない。柔らかな夕刻の空気の中、並んで歩道をたどる。ぽつりぽつりと交わす他愛もない話と二人分のささやかな笑い声が、穏やかな空気にとけて いく。その見えない軌跡を目で追うように、ふと見上げると、視界を覆ったのは鮮やかな桃色。夕陽の色にも近い花びらの一枚一枚が、そよぐ風に揺れていた。駅近くの駐輪場、その 真ん中に咲く、早咲きの桜だ。
 春が来たんだ。私は一人微笑んで、黄瀬くんに向き直った。ここまでで大丈夫だよ。そう告げようと開きかけた口は、驚くほどまっすぐにかち合った視線にふさがれてしまった。斜め から差す陽光が、澄んだ瞳を光らせる。

 「春だから、って、言ったじゃないスか、オレ」

 確認するように区切られた言葉に、私は記憶をたどって、ゆっくりと頷いた。背筋を正した黄瀬くんが、小さく息を吸い込む。

 「だから、春、してみないっスか。オレと」

 そして紡がれた声はまた小さなものだったけれど、風に乗って確かに私の耳に届いた。強張った表情のその目尻が、夕陽にとけてしまいそうなほどに赤い。胸の奥から指の先まで、 あたたかさが私の体をめぐっていくのがわかる。少しぎこちなくなってしまうかもしれない。こっそりそんな心配をしながらも、私は黄瀬くんに答えて、笑った。

 が来たんだ。















春も真っ