gdgdafternoon,


 「敦、寝たのか?」

 「はい……」

 食べ終わったパンの空袋を折りたたみながら、氷室先輩が問うた。自分の食事を終えて、やっとこちらに構ってくれる気が起きたらしい。
 ひどいです、遅いです。私は先輩の手の中で小さくなった空袋に、恨めしげな視線を送った。

 「食べないのか?」

 「もう諦めます……また休み時間にでも食べますから」

 「食べさせてやろうか?」

 「な、け、けっこうです!」

 思わず大きな声が出てしまった。残念、と笑う氷室先輩に顔が熱くなる。からかわれた。
 私は膨れっ面になるのを我慢できずに、ぷいと視線を逸らす。そして掲げ持ったままだったお弁当の存在を思い出して、ため息をついた。床に置いていたはずの蓋とお弁当袋を、 体を動かさないように気をつけつつ手だけで探り当てる。まだ中身の残ったそれを、食べる前のかっこうに戻して、鞄の中に仕舞った。
 紫原くんの突拍子もないわがままにはもう慣れっこだ。今ここでこうやって寝ることは許してあげるけれど、しばらくはお菓子をねだられても作ってきてあげない。

 「敦は大きい子供だな」

 「まったくです」

 「はお母さんみたいだ」

 「否定しきれないのが何とも言えません」

 「じゃあお父さんはオレか」

 「それなら助けてくださいよー……」

 「はいはい」

 苦笑して、氷室先輩は腰を上げた。私たちの傍まで来てしゃがみ込むと、眠りこける紫原くんの頭をぺちぺちと叩いたり、腕を引っ張って私からはがそうとしてくれた。
 しかし、この子は本当に今眠っていて意識がないのだろうか。私をホールドしてびくともしないその腕に、やがて肩をすくめた。

 「だめだな。爆睡だ」

 「そうですか……」

 私はがっくりと肩を落とした。紫原くんからかけられた重みで、元から下がっているわけだけども。
 氷室先輩は何がおもしろいのか、私の顔を見てにこにこしている。訝る視線を向けると「いや、な」といたずらっぽく小首を傾げた。

 「敦ばっかりずるいな、と思って」

 「何がですか?」

 「それ。またオレにも抱かせてくれよ、

 「なっ」

 私は口をがばっと開けて、また閉じた。言い方があれです、と言おうとしたのを、寸でのところで飲み込む。わざわざそんなことを言ったら、私の方があれみたいじゃないか。
 わなわなする私を見て、くつくつと笑う先輩。
 私はからかって遊ぶおもちゃじゃありません。