*登場キャラがWJネタバレにつきご注意下さい。

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「ウィンターカップの間、お前に白雪禁止令を命じる。」

ミーティングで言い渡された突然の監督命令に紫原はピタリ、お菓子を食べる手を止めた。『はあ?』と怪訝そうな顔を隠しもしない。明らかに監督に対する態度ではないが、この大きな子供に目上の人間を敬うような慎ましさなど皆無である事は百も承知なので陽泉高校男子バスケットボール部監督、荒木雅子は特に気にした様子もなく話を続ける。

「何それ。」
「言った通りの意味だ。ウィンターカップの間、白雪に接触する事を禁じる。マネージャー業務にも差支えるから会場にいる間は許すが、それ以外、特にホテルにいる間は一切禁止だ。」
「何そのおーぼー。納得できるわけねーし。」
「白雪の方は納得してくれたぞ。」
「は?」

紫原は恋人であり、マネージャーでもあるのえるの方を見やる。すると彼女ははは、と苦笑を漏らした。どうやら監督の言葉は本当らしい。

「ちょっと何で、」
「理由は二つだ。若い男女を二人きりにするとやる事は一つだから、ゴール下の要に途中でバテられたら困るから。意味は分かるだろう?」

今度は部員達が視線をさ迷わせる番だった。分かっているとは言え、こういった生々しい話をされるとどうにも居心地悪い。

「別にバテねーし。」
「悪いな、リスクは少しでも減らしておくのが監督の役目だ。」
「………のえる、」
「ご、ごめんね…監督の言う事は正論だから…それに選手の体調に気を遣うのもマネージャーの役目なので。」

眉を下げながらもその視線ははっきりとしたもので、今回は彼女も譲る気はないのだと悟る。こういう時の彼女は頑固者だ。紫原ははあ、と溜息を吐く。

(まあ、こっそりのえるんとこ遊びに行けば………)
「言っておくがこっそり訪問しようとしても無駄だからな。白雪は私と相部屋だ。」

ああ、詰んだ。







「マジふざけんなしー。」
「ご機嫌斜めだな、敦。」

その大きな身体で思い切りダイブした衝撃でベッドのスプリングがギシギシと軋む。その様子に隣のベッドに腰掛ける相部屋の氷室が苦笑した。

「ここまで徹底されると不機嫌にもなるし!食事の時ものえるの周りの席他の奴らで埋まってるし、一人になった所見計らって近づこうとすればケツアゴに後ろから羽交い絞めにされて見失うし最悪ー。」
「こら、ケツアゴじゃなくて主将だろ。」
「じゃケツアゴ主将。」
「うん。それならまあ、悪口じゃなくてあだ名の範疇だから良いか。」
「てゆーか別にケツアゴの事はどうでも良くてさー、」

のえるに触りたい。あの柔らかい身体を抱き締めたい。あの良い匂いのする髪に顔を埋めたい。あの薄紅色の唇に、キスがしたい。

(あ、そう言えば今日クリスマスだ。)

思い出して余計に虚しくなった。世の恋人がいちゃいちゃちゅっちゅしてる時に何故自分だけこんな目に。ああ、考えるだけで胸がムカムカしてきた。

「あーもーイライラする。ちょっとそこのコンビニでお菓子買ってくる。」
「迷うなよ。」
「向かいのコンビニ行くのに迷うわけねーし。室ちん俺の事馬鹿にしすぎじゃね?」
「その言葉忘れるなよ、迷子常習犯。」







「あっれー………」

数十分後

寒空の下、紫原はコンビニの袋片手に首を傾げた。どうしようか、ホテルまでの帰り道が分からない。ホテル向かいのコンビニにお気に入りの味のまいう棒がなかったので違うコンビニに探しに行ったら案の定、迷子になってしまった。しかもすぐ戻るつもりだったので携帯はホテルに置きっぱなしだ。

「うわ、どうしよ………」
「敦、君、」


万事休すかと思ったその時、服の裾を掴む感触と同時に聞き慣れた、けれど懐かしい声が耳に届いた。

「………のえる、」
「こんな所にいた…!もう、探したよ?」
「何で………」
「いや、敦君の行動パターンだとそろそろコンビニにお菓子買い集めに行く頃かなって。でもホテル向かいのコンビニにいなかったからこれはお気に入りのお菓子がなかったから違うコンビニに行ったパターンかと思って。」
「………何それ、」

すっげ愛を感じるわー。堪らなくなって、紫原は彼女をギュッと抱き締めた。外にいるせいか彼女の身体はいつもと違ってひんやりと冷たかったがそれでも離す気になどなれない。彼女もまた、紫原の背中に寒さで赤くなった手を回す。

「寂しかったんだけど、かなり。」
「………ん、ごめんね。」
「ん?てゆーかのえる、俺がコンビニにいると思ってコンビニに来たわけ?監督命令に従うんじゃなかったの?」
「………寂しいと思ってるのがさ、」
「?」
「敦君だけだとでも、思ってた?」


ちゅ

精一杯背伸びをしたのえるは紫原の唇に一瞬だけ己のそれを重ねた。頬を赤く染める彼女を紫原は真ん丸にした目で見つめる。

「コンビニで『偶然』逢う位は許されるんじゃないかって自分を甘やかしちゃいました、すみません。」
「………………」
「メリークリスマス、敦君。」
「………メリークリスマス、のえる。」


素敵なプレゼントをありがとうございます、真っ赤な頬の可愛い可愛いサンタクロース。



あいとゆーだけあればいい



(他には何も、)

20111216


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