あぁ、これもいいな。でもあれもいいな。白い息を吐き出しながら私はかじかんだ手を動かす。たくさんあるはずなのに、これというものが見つからない。ニット帽、毛糸の手袋、ロングコート、ムートンブーツ。完全装備のはずなのに首が寒い。他のどこを温めても首が無防備だと意味がない。冬には必須であるはずのマフラーを、未だ手に入れていない私は探していた。
必死になっていると、後ろから肩を叩かれた。驚きながら振り向くと、そこには予想外の人物が立っていた。

「氷室…君?」
「珍しいね。買い物?」

ガサガサとふくらんだビニール袋を提げる氷室君は、私を見つけた途端一気に距離を縮める。
彼の問いかけにうん、とぎこちなく答えると綺麗な瞳が笑った。
私がどうしてここにいるのか知りたそうな氷室君に、中々いいマフラーが見つからない。と現状を伝えると、そっか、と一言呟いて先程私が流れるように触っていた中から一つ取り出し軽く私の首に巻いた。
あまりにも突然の事で、私の目はパチパチと瞬く。顔の温度を下げようと上を見上げると、氷室君と目が合って私の思いつきは逆効果となった。

「やっぱり、よく似合ってる」

私の首に氷室君の温かい手がこすれ、くすぐったさに目を細めたため氷室君の笑顔がぼやけて見える。
その時に、マフラーなんて必要ないほど私の体温は上昇した。
そしてぼやける頭の中で、私は購入するマフラーをやっと決めた。

(あなたいろ)

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