きゃわきゃわと黄色い声の群がりに釣られて、は足を止めました。見ると、めいめいにおしゃれをした女の子がたくさん、輪になって嬉しそうに騒いでいます。その輪の中心、 きらきらした視線たちの先をたどると、ひとりのカボチャが。黄色い体に、お馴染みジャック・オ・ランタンの大きな頭が取ってつけたように乗っかっているきぐるみです。もこもこ した腕にキャンディが山盛りの編みカゴを引っかけ、ミトンの手でそのキャンディを掴んでは、女の子たちにばらまく作業をしています。
 もう少し愛想のある動きができないのかと、が遠目にその様子を見守っていると、カボチャは不意に手を止めました。くり抜きの目は、のいる方向に向けられています。
 が首を傾げているうちに、カボチャはもこもこの腕をぶんぶんと振って、もふもふと走り寄ってきました。

 「っち!」

 きぐるみの下から聞こえた声に、は額に手を当てました。

 「黄瀬くん、まじかあ……」

 「え、ちょ、何スかその反応は」

 「いや、だってそのかっこは、ないわあ……」

 「仕方ないんスよー、これも仕事っスから」

 「何の仕事?」

 「モデル」

 「仕事選べてないんだね……」

 「ひでーっス!」

 でもホラちゃんと人集まったんスよ、と黄瀬は唇を尖らせて背後の集団を指しました。と言ってもカボチャの頭を被ったままなので、実際のところどんな表情をしているか、には わかりません。雰囲気です。しかし、こんな格好をしていてもその一挙一動で女の子をほわんとさせるのだから、カボチャになってもモデルなのだなあ、とは女の子たちのうっとり 顔を眺めながら思うのでした。感心はしていません。呆れているだけです。

 「ところで、っちもその格好はハロウィンスか?」

 「そうスよ」

 「羽としっぽがかわいーっス!」

 「どうも」

 「つーことでトリックオアトリート!」

 「持ってないよ」

 「えー!?」

 「私もらう側だから。はい、トリックオアトリート」

 「自分だけずるいっスよー」

 「いいからそのアメちゃんを寄越しなさい」

 「ちぇー」

 カボチャの黄瀬はぶうぶう言いながらも、キャンディの山からいくらかを鷲掴みにして差し出しました。はそれを、持ってきたバケツで受け取ります。からころと音がして、 バケツの中を覗き込むと、ビビッドカラーのセロハンで包まれたキャンディが10個、転がっていました。

 「わあ、大サービスだね」

 「通常1人2個のところを、っちには特別で5倍スよ」

 「うはー太っ腹! ありがとう!」

 「つっても半分はオレがもらうんスけど」

 「へ?」

 「後で一緒に食べようっス!」

 そう言ってまたぶんぶんと手を振ると、黄瀬は女の子たちのところへ戻っていきました。歓声に迎えられ、キャンディの配布を再開します。
 はその大きなカボチャ頭を眺め、少しだけもぞもぞし、結局もらったキャンディをひとつだけ口の中で転がして、待つことにしました。