真っ白なクロスが敷かれた、豪奢な造りのテーブル。その中央に置かれたアンティークの燭台を挟み、氷室はを見てにこにこしています。控えめな色合いの照明が、その黒髪に 淡い金色の輪を作ります。部屋の雰囲気と調和して、瀟洒な装いに身を包んだその姿は、どこかの貴族の青年と言っても差し支えありません。
 そんな、奇妙なぐらいの気品をかもし出す氷室を、は胡乱な目で眺めました。勧められたいい香りの紅茶を、ずずずと啜ります。

 「……氷室くんは何なのかな」

 「ん? 何が?」

 「その格好。今日ハロウィンだから、だよね? 何の格好なのかなと思って」

 「ああ、そのことか。何だと思う?」

 「貴族のお坊ちゃんに見えるけど」

 「それはおばけじゃないだろ」

 「知ってるよー。でもおばけって感じじゃないし」

 「はは。は小悪魔?」

 「んえ、うーん、よくわかんないけど……コウモリ?」

 「可愛いな」

 「……ど、どうも」

 は少し俯いて紅茶を啜りました。先程より、心ばかり音は控えめです。微笑む氷室においしいかと問われ、ゆるゆると頷き返します。氷室が勧めてくれたお茶もお菓子も、とても おいしいのです。上品な甘さが口の中に、華やかな香りが部屋いっぱいに広がっています。氷室のどことない胡散くささを思考の隅に追いやっても、それらはをふわふわと 幸せな気分にさせてくれます。
 チョコレートのケーキをひとかけ口に運びながら、はふと瞬きしました。

 「あれ? 氷室くん、目が赤い」

 「そうか?」

 「充血……じゃなくてガチで赤い。大丈夫?」

 「ああ、特に何もないよ」

 「厨二?」

 「オレは高二だけど」

 「そういうこっちゃなくて」

 「はは」

 「ていうか、あれ?」

 は額に手をやりました。ふわふわしています。気分が、でなくて、頭がです。貧血でしょうか、しかしどうにも感覚が違います。どうしたのだろうと思ううちにも、手元が 覚束なくなり、フォークを取り落としてしまいました。カチャン、と金属のぶつかる澄んだ音がして、チョコレートのクリームが指先に跳ねます。
 ふらりと体を傾けたの傍には、いつの間に移動してきたのか、氷室が立っていました。椅子から倒れそうになるの体を、やんわりと抱きとめます。もやがかかっていく 意識の中で、はその薄い笑みを見上げていました。

 「……なにか、盛った?」

 「まさか。オレがにそんなことするわけないだろ? ただそのお茶とお菓子にそういう効果があって、」

 よく言う、とは胸の内で毒づきます。言葉を紡ぐのも億劫です。
 ぼやける視界の隅で、ちらりと覗いた白い牙。赤い目。
 どこか遠くで、午前零時を告げる鐘の音が響きました。

 「今がそういう時間なだけだよ」

 ゆっくりと首筋を引き寄せられ、は冒頭の疑問の答に至ります。

   吸血鬼だ。