ふさふさの耳に、しっぽ。は目をきらきらさせて、駆け寄りました。

 「犬ー!」

 「犬じゃねーよ、狼だよ」

 青峰は休日のお父さんスタイルで寝そべったまま、しっしをするようにしっぽを振りました。めんどくさそうに眉間にしわを寄せると、頭のてっぺんに生えた尖った耳もぴくりと 動きます。短いけれど柔らかそうなその茶色い毛に、はもう夢中です。はたはたと揺れて逃げるしっぽを捕まえようと、必死に手を伸ばします。

 「いいなーいいなー触らせて!」

 「やだよ。くすぐってえんだって」

 「ちょっとだけ! 撫でるだけ!」

 「やだっつってんだろ」

 「お菓子あげるからー」

 「いらねー。つかコメ食いてー」

 「お米なんて持ってないよー。ていうか私お菓子も持ってないんだった」

 「んだよそれ。やる気ねえなー」

 「ていうかお菓子とかもうどうでもよくなった! 触らせて!」

 不意を突いて素早く突き出したの指先が、しっぽの毛をかすりました。その一瞬の感触に、青峰は牙を剥きました。

 「だあああもううぜえ! 襲うぞ!」

 「えっ」

 驚いたのか、はしっぽを追う手をぎくりと止めました。しかし顔はだらしなく笑ったままです。
 一拍置いて、青峰はなんだかひどく脱力しました。

 「……冗談だよ、めんどくせー。寝る」

 「あ、うん」

 「いいか、ぜってー触るなよ。寝てる間に触りやがったら小突き回すぞ」

 「う、うん、わかった。おやすみ」

 青峰はに背中を向ける格好に、ごろんと寝返りを打ちました。自然と、少し長いふさふさのしっぽはの目の前に投げ出されます。
 はしゃがみ込んだまま、寝に入るその背中に、意味もなく手を振ってみました。

 10数分後。
 すっかり夢の中の青峰を起こさないようにそうっと、しかし大興奮で、はしっぽのもふもふを楽しみました。