「やあ、」
休み時間に廊下で擦れ違ったときのように、なんてことのない調子で、赤司は軽く片手を上げました。しかし、声をかけられた方のは、顔を青くして唇を戦慄かせ
ました。
「ど、どどどっどうしたの赤司くんその格好!?」
「どうしたって?」
「包帯ぐるぐる巻きで、うわあ服もずたぼろだし……! け、怪我、どっか怪我したの!?」
「落ち着いて。これは仮装だよ、ミイラの」
赤司は手首に巻かれた包帯を軽く引っ張って言いました。ところどころ擦れて破れたシャツの下にも、同じような包帯が見えます。頭に巻かれたものは顔にまで垂れ下がって片目を
覆い隠し、首筋にも少し解けかけぐらいに緩く巻きつけられています。
白い帯状の布で肌のほとんどを隠した、傍目にはなんとも痛ましいその姿に、の脳内でやっと、ファラオの呪い的なおばけのイメージが重なります。
「な、なーんだ、びっくりしたあー。私はてっきり赤司くんが事故かいじめにでも遭ったのかと」
「は失礼な子だね。この僕がいじめだって?」
「あ、や、あの、それはものの例えで」
「今日はハロウィンだろう? 僕が仮装しているだなんて、思ってもみなかった?」
「いや、あの、それは、はい。あ、じゃなくて! あまりにもよくできてたからその、すっかり騙されたっていうか、やっぱり赤司くんはすごいなあ!って!」
しどろもどろに取り繕い、はうんうんと何度も大きく頷きます。心の中では滝汗です。普段もそうなのですが、仮装という非日常に身を包んだ赤司には、また一種違った威圧感が
あります。ひとつでも言葉の選択を誤れば、それこそその包帯でくびり殺されそうな。
血の気の失せた顔で空笑いを続けるに、赤司はほんの一瞬、すっと目を細めました。しかしすぐ真顔に戻り、やれやれといった風に肩を竦めます。
「まあいいよ。それより」
「はい何でしょう!?」
「手の包帯が解けかけているんだ。巻き直してくれないか?」
「喜んでー!!」
恐怖心でノリがおかしくなったは、赤司の言うことに即座に従いました。赤司が差し出した右手を取り、緩んだ包帯をいそいそと巻き直します。
しかしおかしなことに、その作業は一向に進みませんでした。がどれだけいそいそとしても、包帯は巻いたそばからまた緩んで解けていきます。巻いてはほどけ、巻いては
ほどけ。最初は焦るばかりのでしたが、それでも時間と共に徐々に落ち着いた思考を取り戻していきます。その片隅で、これはどうにもおかしいぞ、とようやく思い至った頃。
の手は、赤司の手ごと、解けた包帯にすっかり絡まっていました。
「あ、あの、赤司くん、えっと、これは」
「ああ、絡まってしまったね。残念だけどこれはもう解けないよ」
「え、え? それは、ど、どういう」
「嬉しいな」
赤司の指が、するりとの手に絡みました。そのまま握り込まれた力の強さに、は悲鳴を上げることもできませんでした。
唇が触れるほど近くで、赤司は囁きます。
「これでずっと一緒だ」