※参考『デジタル大辞泉』





 「ねー、ひめはじめって何?」

 机にぐてんと半身を預け、頬をくっつけた国語の課題プリントをシャーペンでぴしぴしと叩きながら、紫原が言った。
 冬休み明けを目前に控えた今日、それぞれの、主に紫原の課題進行状況に追い込みをかけるため、紫原、氷室、は学校のグループ学習室に集まっていた。食堂の方がいいという 紫原たっての希望は却下された。むざむざ飲食可の場所に彼を置いて、それで勉強が効率良く進むわけがない。菓子から引き離された紫原はもちろん不満たらたらだったが、文句を 言ったところでこの二人が勘弁してくれることはないと重々承知している。愛しの菓子たちとの再会のときを目指して、しぶしぶしかたなくのろのろと問題を解いていたが、ここに来て とうとう集中力が切れ始めていた。口寂しさに思わずかじろうとしたシャーペンも氷室がさっと取り上げ、の方を見た。

 「オレは知らないな。、辞書持ってるか?」

 「あ、はい。ちょっと待ってください」

 は足元に置いた鞄から電子辞書を取り出し、検索をかけた。その間にも紫原の集中力メーターはみるみる減少していき、プリントに額をくっつけてごろごろさせ始めた。そろそろ 正午に近くなってきたし、これが終わったら昼食にしよう、と氷室がそれをなだめる。

 「あ、ありました」

 の声に二人は顔を上げた。

 「えーとですね、姫始めは、暦の正月2日のところに記された日柄の名。種々の事柄をその年に初めて行う日とされる。姫飯を食べはじめる日、「飛馬始め」の意で馬に乗りはじめる 日、女が洗濯・縫い物などを初めてする日など。で、近世以降、は、」

 はたと表情を固まらせて、はすらすらと読み上げていた辞書の言葉を切った。半開きの状態でフリーズした口元に、紫原と氷室はそろって首を傾げたが、やがて紫原の方は興味を なくしたのか、「そっか、ありがとちんー」と言っていそいそと解答に取りかかった。今はとにかく目の前に吊り下げられた昼食休憩に向けた欲が勝っている。
 頷いて辞書を閉じようとしたの手元を、ひょいと氷室が覗き込んだ。不思議そうに目をまたたかせての肩に手をかける。

 「、最後の一文言ってな、」

 「紫原くんにはまだ早いんです!!」

 「え、なにー?」